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 第23回 ホンダクロスロードのヒルスタートアシスト付きVSA(車両挙動安定化制御システム)
  本田技研工業鰍ヘ、SUVのデザインと機動性にコンパクトカーなみの扱いやすいサイズやミニバンの3列7名乗車機能を融合した新しい価値を提案した「クロスロード」を発売しました(写真1)。その4WD車に搭載された車両挙動安定化制御システムVSA(Vehicle Stability Assist。ABS+TCS+横すべり抑制)に坂道発進時にブレーキペダルから足を離しても一時的にブレーキ圧を保持することでスムーズな発進ができるホンダ初のヒルスタートアシスト機能が追加されました。

写真1.ホンダクロスロードの外観。SUVのスタイルをもっているが、ミニバンの要素を加えるなど新しい価値を付加したジャンルの新型車。


 ●VSAシステムの概要

 VSAシステムは、VSAモジュレータコントロールユニット、ホイールセンサ、舵角センサ、ヨー/Gセンサ(ヨーレイトセンサ、前後Gセンサ、横Gセンサ)で構成されています(図1)。そして、ブレーキおよびエンジントルクダウンを使用してABS(アンチロックブレーキシステム)制御、EBD(エレクトロニックブレーキディストリビューション)制御、TCS(トラクションコントロールシステム)制御、VSA制御、ブレーキアシスト制御、ヒルスタートアシスト制御を行うものです。またIHCC(インテリジェントハイウェイクルーズコントロール)システム、CMBS(Colision Mitigation Brake System。追突低減ブレーキ)を装備している仕様もありますが、これらの制御もVSAモジュレータコントロールユニットで行われます(図2)。


図1.VSAシステムを構成する部品配置図。
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図2.VSAシステムの制御ダイアグラム。すべての制御はVSAモジュレータコントロールユニットによって行われる。
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 ●VSAシステムの制御内容

 VSAの制御内容を簡単におさらいしておきましょう。
 @ABS制御:走行中にブレーキをかけると車輪がロックすることがあります。車輪ロックが前輪に起きると操舵力が低下し、後輪に起きると方向性が低下(テールスライド)してクルマが不安定になります。このABSは、車輪のスリップ率を目標スリップ率に近づくようにブレーキ圧を制御してタイヤのグリップ力を確保してクルマの操舵性と方向性を確保します(図3)。

 AEBD制御:ブレーキ時にブレーキ力を有効に路面に伝えるため、積載状態や減速による荷重移動にあわせて前後ブレーキ力の配分を適切にコントロールして後輪ブレーキ力を確保します(図4)。

 BエンジンTCS:発進加速時やコーナリング中などに駆動輪のスリップを検出すると、エンジンコントロールユニットへトルクダウン信号を出して駆動輪のスリップを防止してタイヤのグリップ力を確保します。

 CブレーキTCS制御:駆動輪の片側が低μ路などでスリップしたときにVSAモジュレータコントロールユニットへブレーキ信号を出力し、駆動輪のスリップを抑制してタイヤのグリップ力を確保します(図5)。

 DVSAオーバーステア抑制制御:クルマがオーバーステア状態に陥るとVSAモジュレータコントロールユニットは、図6のように外側前後輪へ最適に配分したブレーキ加圧信号を出してオーバーステアを抑制するモーメントを発生させてクルマを安定させます。

 EVSAアンダーステア抑制制御:クルマがアンダーステア状態に陥るとVSAモジュレータコントロールユニットは、図7のように内側前後輪へ最適に配分したブレーキ加圧信号を出してアンダーステアを抑制するモーメントを発生させます。また加速中の場合は、エンジンコントロールユニットへトルクダウン信号を出して駆動輪のコーナリングフォースを増加させ旋回性を確保してライントレース性を向上させます。

 Fブレーキアシスト制御:緊急ブレーキを検出した場合、全車輪のブレーキ圧を増圧します。ブレーキ圧を増圧したあと車輪のスリップ状態を判定した場合、このスリップ状態および加速度に応じて三つの液圧制御モード(増圧、減圧、保持)を決定して該当する車輪のブレーキ圧を調整します。
 VSAシステムの作動イメージを図8に示します。ブレーキ/エンジントルク制御で左右輪の駆動力を緻密にコントロールしてクルマの挙動を安定化するものです。

図3.VSAシステムのABS制御は車輪のスリップ率を目標スリップ率にブレーキ圧を制御してタイヤのグリップ力を確保して操舵性と方向性を確保する。
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図4.VSAシステムのEBD制御は、前後ブレーキ力の配分を適切にコントロールして後輪ブレーキ圧を制御して車両状態に応じた最適な後輪ブレーキ力を確保する。
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図5.VSAシステムのブレーキTCS制御は、駆動輪の片側が低μ路などでスリップしたときに駆動輪のスリップを抑制してタイヤのグリップ力を確保する。
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図6.VSAシステムのオーバーステア抑制制御はオーバーステアを抑制するモーメントを発生させる。
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図7.VSAシステムのアンダーステア抑制制御はアンダーステアを抑制するモーメントを発生させ、加速中はトルクダウンしてコーナリングフォースを確保する。
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図8.VSAシステムの作動イメージ図。クルマの挙動を安定させるシステム。
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 ●ヒルスタートアシスト制御

 この制御はホンダ車としては初めての制御で、従来のVSAシステムの制御内容に追加されたものです。坂道発進時にブレーキからアクセルペダルに踏み換え時に発生する後退をブレーキ圧を制御することで一時的に抑制してドライバーの発進操作を補助します。その作動は、すべてのホイールセンサ(車輪速センサ)信号からクルマが停止したことを判断すると、前後Gセンサ信号から傾斜角(約5%〜35%勾配)を演算して傾斜角に応じた目標液圧を計算します。そしてプレッシャセンサ信号からドライバーがブレーキを解除したことをVSAモジュレータコントロールユニットが認識すると液圧を一定時間(約1秒間)保持するのです(図9)。この機能は4WD車の全タイプに採用されています。
 ヒルスタートアシスト機能の作動イメージ図を図10に示します。
 


図9.ヒルスタートアシスト制御は坂道の勾配を検出して坂道発進時に一時的にブレーキ圧を保持してクルマの後退を防ぐもの。
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図10.ヒルスタートアシスト機能の作動イメージ図。
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