Motown21トップ技術革新 > 自動車技術トレンド

 第30回 三菱ランサーエボリューション]のS−AWC(スーパーオールホイール
       コントロール)
 このほどフルモデルチェンジされた三菱ランサーエボリューション]は、三菱を代表する高性能4WDセダンで、“誰もが気持ちよく安心して「高い次元の走り」を楽しめる新世代ハイパフォーマンス4WDセダン”を商品コンセプトとして開発されています。
 すべてが一新されたといってよいほど、多くの新技術が採用されていますが、今回は4輪の駆動力・制動力を独立にコントロールして“意のままの操縦性と卓越した安定性”を実現する車両運動統合制御システムS-AWCに注目しました。


 ●S−AWCのねらい

 これは基本的に4WD制御を核とした車両運動統合制御システムです。写真1にS−AWCシステムのシャシモデルを示します。駆動力と制動力を制御することによって車両の前後運動と旋回運動をコントロールするもので、加速・減速・旋回のあらゆる走行状態でシームレスに車両運動性能を向上させることを開発のねらいとしています。
写真1.三菱ランサーエボリューション]のS−AWCシステムのシャシモデル。
(すべての図・写真はクリックすると大きくなります)


 ●システムの概要

 4輪の力を最大限に発揮するために4WDシステムをベースにACD(アクティブセンターデファレンシャル)、AYC(アクティブヨーコントロール)、スポーツABS(アンチロックブレーキ)およびASC(アクティブスタビリティコントロール)を統合制御するシステムです(図1)。ドライバーの意志や走行状況を的確に把握するためにハンドル角、ブレーキ圧、車両の前後、横加速度、ヨーレイトなどを検知するセンサを装備しています。システム構成を図2に示します。
 以下にシステムを構成する要素について、簡単に説明します。
@ ACD:センターデファレンシャル(以下センターデフ)の差動制限装置に電子制御に油圧多板クラッチを採用して走行状況に応じて前後輪の差動制限力をフリー状態から直結状態までコントロールすることで、前後輪へ伝達される駆動力を最適に配分し、操舵応答性とトラクション性能を高次元で両立させます(写真2、図3)。

A AYC:リアデファレンシャル(以下リアデフ)内に設けた左右トルク移動機構によって走行状況に応じて後輪左右のトルク差をコントロールすることで、車体に働くヨーモーメント(旋回力)を制御して旋回性能を向上させます(写真3、図4,5)。また左右輪間のスリップを抑制する制御によってLSD(リミテッドスリップデフ)効果を発揮してトラクション性能も向上させます。これはランサーエボリューションWで世界で初めて採用され、エボリューション[ではデフ機構をベベルギア式から遊星(プラネタリ)ギア式に変更して最大トルク移動量を約2倍に増大した「スーパーAYC」へと進化していました。これをさらに進化させるために、ヨーレイトセンサを用いたヨーレイトフィードバック制御を採用するとともにブレーキ制御も追加して、車両の旋回運動を的確に判断してドライバーの操作に対して、より忠実な車両挙動を実現しました。

B ASC:各車輪のブレーキ力およびエンジン出力を制御することによって車両姿勢を安定させながら駆動力を確保します。4輪それぞれにブレーキ圧センサを備えることで、より緻密で正確なブレーキ圧制御ができるようになりました。また滑りやすい路面などで発生する駆動輪の空転を防止することで加速時の駆動性能を向上させるとともに緊急回避時などの急激なハンドル操作で生じる車両の横滑りを抑制して車両の安定性能を高めています。

C スポーツABS:急ブレーキや滑りやすい路面でブレーキを踏んだときに車輪のロックを防止し、制動力・ステアリング操作性・車両安定性を維持します。新たに追加されたヨーレイトセンサやブレーキ圧センサの情報を活用することで、旋回中の制御で性能を向上させています。

図1.S−AWCシステムの機能概要。センサ情報を集めて、ACD、AYC、ブレーキおよびエンジンを制御する。


図2.S−AWCシステムの構成図。意のハンドリングと圧倒的なスタビリティを実現している。


写真2.ランサーエボリューション]のアクティブセンターデファレンシャルのカットモデル。


図3.アクティブセンターデファレンシャルの構造図。前後輪の回転速度差をフリー状態から直結状態までコントロールして前後輪に最適に駆動力を伝達する。


写真3.ランサーエボリューション]のAYCデファレンシャルのカットモデル。


図4.左輪へトルク移動する場合のAYCデフの作動。


図5.右輪へトルクを移動する場合のAYCデフの作動。


 ●S−AWCの制御

 ACD,AYCの制御に、新しくエンジントルク、ブレーキ圧情報を用いることで、車両の加減速状態を素早く判断します。これによってレスポンスのよい制御を実現しました。またヨーレイトセンサを用いたヨーレイトフィードバック制御を新しく採用したので、ヨーレイトセンサから得られる車両の状態とドライバーのステアリング操作から得られるドライバーの意図する車両挙動を比較演算して、その差に応じて制御するなどドライバーの操作に、より忠実な車両挙動を実現しています。さらにAYC機能には、左右トルク移動制御に加え、新しくブレーキ制御を追加することで、限界走行領域付近での車両挙動もアシストします。アンダーステア時には旋回外輪にブレーキ力を付加することで、左右輪間のトルク移動制御とあいまって高い旋回性能と安定性を実現しています。
 またASCとスポーツABSとの統合制御によって、加速・減速・旋回のあらゆる走行状態においてシームレスで効果的な制御を実現します。このS−AWCの制御は、乾いた舗装路での走行を想定した「TARMAC(ターマック)」、濡れた路面や未舗装路での走行を想定した「GRAVEL(グラベル)」、雪道での走行を想定した「SNOW(スノー)」の3モードを設定しているので、路面状態に応じてモードを切り換えることで、各路面に応じた適切な制御を行って高い運動性能を発揮します。図6に従来の制御(ランサーエボリューション\)とS−AWC統合制御の効果イメージ比較を示します。通常走行から緊急回避時までの幅広い走行状況で、運動性能が向上していることが分かります。

図6.ランサーエボリューション\での従来制御(左)とS−AWC統合制御(右)の効果イメージ。




 株式会社 ティオ MOTOWN21 事務局
〒236-0046 横浜市金沢区釜利谷西5-4-21 TEL:045-790-3037 FAX:045-790-3038
Copyright(C) 2005-2006 Tio corporation Ltd., All rights reserved.