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 第39回  ワーゲンの乾式デュアルクラッチ7速DSG

フォルクスワーゲングループジャパン㈱は、「ゴルフ」のエントリーモデル「ゴルフE」に変わる「ゴルフTSIトレンドライン(写真1)」を設定して発売を開始しました。

写真1.フォルクスワーゲンゴルフTSIトレンドラインに新型7速DSGを搭載している。


 日本国内初登場の1.4リッターTSIシングルチャージャーエンジンについては、前回紹介しました。このエンジンに組み合わされるミッションが、この世界初の横置きエンジン用7速DSG(Direct Shift Gearbox)です。

 ● 従来型DSGの概要

 従来から量産されていたデュアルクラッチ・ギアボックス(トランスミッション)の6速DSGは、マニュアル・ギアボックスと多段式オートマチック・ギアボックスの長所を併せ持つ先進のギアボックスとして、従来は不可能とされていた高レベルのシフトフィーリングとドライビングダイナミックスを両立していました。大きな注目を集めたギアボックスです。2003年に登場してから、すでに累計生産数は100万基を突破しています。

 これには湿式多板(マルチプレート)クラッチが採用されており、オイルでクラッチを冷却しています。クラッチの冷却には多量のオイルを必要とするので大型のオイルポンプが組み込まれています(写真2)。またこのオイルは、メカトロニクス用と兼用なのでギアの選択やクラッチの制御を行うために高い圧力が求められます。そのため高トルクに耐えられるメリットがある一方で(4MOTION=4WDには必ず組み合わされる)、一定のパワーロスが生じます。なお図1に6速DSGのギア配置を示します。

 6速DSGの主なスペックは、①最大許容トルク:350Nm、最大許容出力:220kW、搭載モデル:ゴルフからパサートまで、ギア:前進6段&後退1段、デュアルクラッチ:湿式オイル浸漬クラッチ、駆動方式:前輪および4輪駆動、アクスルスペース:186㎜、重量:93㎏(前輪駆動)、オイル:ギアボックスとメカトロニクス用の共通オイル回路、となっています。

写真2.従来型6速DSGのカットモデル。大型のオイルポンプを一体化している。

 

図1.従来型6速DSGのギアボックス構成図。


 ● 新型7速DSGの特徴

 2008年に追加されたDSGの新バージョンとして7速DSGが投入されました。これは最大トルクが250Nmまでの小排気量エンジン向けに開発されたもので、ポロからパサートまで搭載可能です。

 新しいDSGの最大の特徴は、新開発のデュアルクラッチです。クラッチの形状を変更して世界初の乾式クラッチを採用したデュアルクラッチ・ギアボックスを実現しています。さらにギアボックス自体も、従来の6速から7速へ多段化されており、これによってDSGの効率は大幅に高まり、燃料や排出ガス低減に貢献しています。

 たとえば、ゴルフで90kWの新TSIエンジン組み合わされた場合の燃料消費量は、6MTの6.3L/100㎞(新欧州ドライビングサイクル測定値)に対して5.9L/100㎞を達成し、CO2排出量も149g/㎞から139g/㎞に削減されています。また通常のATとの比較では、最大で20%の燃料削減を実現しています。


 ● 新7速DSGの構造と作動

 乾式クラッチを採用する7速DSG(写真3)は、クラッチ冷却用のオイルが不要なのでオイル量が6速DSGの6.5Lから1.7Lに削減されています。さらにギアオイルとメカトロニクス用オイルの回路を分離し、オイルポンプの効率的な電動式に置き換えられました。その結果、オイル回路で生じていたパワーロスが大幅に抑えられ、機械効率はマニュアル・ギアボックスに匹敵するレベルに高められています。
  ギアボックスの7速化も高効率化に大きく貢献しています(図2)。また1速のギア比は、よりスムーズな発進やクラッチの負荷を低減するために低く設定しています。さらに7速ギアは、燃料や排出ガスの削減や静粛性に有利な、より高めのギア比としています。そのうえで、全体としてはクロスレシオとして快適でスムーズなギアステップ(チェンジ)を実現しています。
  またギアボックスは、7速化に伴い新たに後退ギア専用のアウトプットシャフトを設けてアウトプットシャフトを3軸としています。さらに各シャフト上のギア配置をはじめ、各部を変更して従来オイル回路で使われていた
  サクションフィルタやオイルクーラーなどを廃止することでシステムを簡素化しています。その結果、全長369㎜のコンパクトサイズを実現するとともに重量も6速DSGの93㎏から70㎏へ軽量化しています。

[乾式デュアルクラッチの作動]
 同軸状に重ねて配置された二つの乾式クラッチから構成され、速度・振動・温度などの種々の条件下で高い強度を発揮します(図3)。クラッチの開閉は、メカトロニクスのクラッチピストンで作動するエンゲージングレバーによってコントロールされ、一般的なクラッチが通常閉じているのに対して、能動的に閉じるように作動します。メタルプレートキャリアに接着された摩擦ライニングは、摩擦特性・低磨耗・高速安定性などを最適化して、車両の寿命まで使用できるように設計されています。また乾式なので湿式のようにオイル交換をする必要がなく、摩耗によってライニングの表面が自動的に再生されます。

 [ギアボックスの作動]
 ギアボックスのアウトプットシャフトは、新しく1軸増えて3軸となり、アウトプットシャフト1が1~4速ギアを、アウトプットシャフト2が5~7速を受け持ちます(図4)。後退(リバース)ギアは3本目のアウトプットシャフトに組み込まれ、アウトプットシャフト2にあるインターメディエートステージを経由して力が伝えられます。さらにアウトプットシャフト3にはパーキングロックギアも装着されています。
  2本のインプットシャフトは、同心円状に配置されており、内側にあるインプットシャフト1が奇数ギア(1,3,5,7)を、外側にあるインプットシャフト2は偶数ギア(2,4,6)と後退ギアを受け持ち、それぞれクラッチ1とクラッチ2に接続されています。6速DSGと異なり、1速ギアと後退ギアが異なるインプットシャフト上にあるのでクラッチの切換えによってギアを切り換えることができ、前進と後退を繰り返すときにも迅速なギアチェンジができるようになっています。

[メカトロニクスの作動]
 的確なシフトワークや俊敏なクラッチ動作など、すべての動きをコントロールするメカトロニクスユニットは、独立したオイル回路を備えています(写真4)。そのため、最適なオイルが使用できる、ギアボックスの摩耗などでオイルが劣化しない、圧力が高められるためアクチュエータを小型化・軽量化できる、というメリットを持っています。またエンジンから独立して作動できるのでハイブリッドシステムでのスタート&ストップ機能への対応もできる高い可能性を秘めています。
  なおオートマチックドライブはDレンジで行い、マニュアルシフト操作はシフトレバーのみで行います(写真5)。6速DSGのようなパドルシフトは装備されていません。


写真3.新型7速DSGのカットモデル。乾式デュアルクラッチが最大の特徴。



図2.新型7速DSGのギアボックス構成図。



図3.乾式デュアルクラッチの作動説明図。



図4.新型7速DSGのギアボックスの作動説明図。



写真4.DSGをコントロールするメカトロニクスユニットのカットモデル。



写真5.7速DSGのマニュアルシフト操作はシフトレバーのみで行う。



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