Motown21トップ技術革新 > 自動車技術トレンド

 第53回 メルセデスベンツのハイブリッドシステム

メルセデスベンツ日本㈱は、最高級セダンSクラスに大幅な改良を施したうえ、輸入車で初のハイブリッドモデルの「SクラスHYBRID(以下ハイブリッド)ロング」を追加し発売しました(写真1)。このクルマは、正規輸入車初のエコカー減税対象車です。




写真1.メルセデスベンツSハイブリッドロング。輸入車としては初めてハイブリッドシステムを搭載して販売されている。



 ●ベンツの提唱するブルーエフィシェンシー(Blue EFFICIENCY)とは?

 燃費の向上、CO2排出削減に向けてベンツが推し進めるパワートレインや新しい環境対応技術のコンセプトを言います。このハイブリッドシステムも、その大きな柱のひとつです。
 そのほか、転がり抵抗を最大10%低減したタイヤ(写真2)、ガソリン吐出量をきめ細かく制御する燃料ポンプ、アシスト状況に応じてポンプの駆動を制御しエンジン負荷を低減するECOパワーステアリングポンプ(写真3)、空気抵抗を低減するドアミラー形状(写真4)など、細部にわたって燃費向上に貢献する技術を採用しています。 


 ●ハイブリッドシステムの概要

 ベースとなるガソリンエンジンは、3.5LのV型6気筒で、専用に熱効率を改善するアトキンソンサイクルを採用するなど、大幅な改良が施されています(写真5)。
 このエンジンと組み合わされるハイブリッドモジュールは、エンジンとトランスミッションの間に組み込まれた薄型の電気モーターと量産ハイブリッド車初のリチウムイオンバッテリなど、小型軽量設計の採用によって重量増は、わずか75㎏に抑えられています。またリチウムイオンバッテリは、従来のバッテリ同様にエンジンルーム内に設置されるため(写真6)、トランクルームは、通常のクルマと同じ容量を確保しています。
 電気モーターは、発進時や加速時などトルクを必要とする際に「ブースト機能」としてエンジンをサポートし、エンジンの負荷を軽減する一方、減速時にはジェネレータとして運動エネルギーを回収してバッテリを充電する「回生ブレーキ」として機能します。
 さらに減速して時速15㎞を下回ると、エンジンが停止してアイドリングストップ状態になる「ECOスタートストップ機能」が燃料消費低減に大きく貢献しています。その結果、S350に比べ約30%向上した10・15モード燃費11.2㎞/Lを達成しています。
 なおバッテリの充電状態やモーターのアシスト状態は、エナジーフローディスプレイとしてメーターパネル内のマルチファンクションディスプレイにリアルタイムに表示されます(写真7)。


 ●ハイブリッドシステムの構成部品

主な構成部品について、少し詳しく紹介します。
リチウムイオンバッテリ:従来のニッケル水素バッテリに対してエネルギー密度が大きく、電気効率が高くて小型軽量という優れた特性を持っています。これは駆動用電気モーターとエアコンの電動冷媒コンプレッサへの供給電源となるだけでなくDC-DCコンバータ(変圧器)によって変換され12V車載ネットワークにも電力供給を行い、ヘッドライトや快適装備などの電装品への供給電源にもなります。その構成は、リチウムイオンセルと電子制御セル監視システムを備えたセルブロック、バッテリ管理システム、高強度ハウジング、冷却ジェル、冷却プレート、冷媒供給部および高電圧コネクタとなっています。
電気モーター:エンジンと7速ATの間にコンパクトに設置された小型のディスク型電気モーター(写真8)で、ハイブリッドシステムの効率が向上します。三相交流で駆動電圧は120V、最高出力は15kW/20PS,発進トルクは最大160Nmを発生します。そして、従来の補機類であるスタータモーターとジェネレータ(発電機)機能も兼ね備えています。またドライブトレイン内のねじり振動を減衰させるので室内の騒音と振動を抑える効果もあります。
DC-DCコンバータ:電気モーターは120V高電圧ネットワーク内で、専用の制御用電子機器によって制御される必要があります。このためスタータを設置していたスペースにインバータ(電流変換器)を設けています。またDC-DCコンバータは右側フロントホイールアーチ内にあり、120V高電圧ネットワークと12V車載ネットワーク間のエネルギーの受け渡しを行います。万一トランクに移設された標準の鉛バッテリが上がってしまった場合には、ジャンプリードで始動できるようにしてあります。これについても常に高い変換効率を保つために冷却回路が備わっています。


 

 ●ハイブリッドシステムの作動

停車時:ガソリンエンジンが停止するので燃料消費は0になります。この場合も空調システムとパワーステアリングシステムは、エアコンコンプレッサとパワーステアリングポンプは、専用の電気モーターで駆動されるので停止することはありません。
発進加速時:アクセルを深く踏み込み素早い発進を行うときは、電気モーターのブースト機能で通常よりダイナミックな加速が得られます。
定速走行時:高度な電子制御システムで高速道路でのクルージングなどの走行状況を判断して、エンジン回転数と能力を自動的に最適化することで燃料消費を削減します。
減速時:駆動力が途切れると、直ちに回生ブレーキ機能が働き、速度が15㎞/hを下回ると、エンジンは自動的に停止します。
ブレーキ作動時:ブレーキが踏まれると電気モーターがジェネレータとして働き、運動エネルギーを電気エネルギーに変換してリチウムイオンバッテリを充電します。この機能は、ドライバーにはエンジンブレーキのように感じられます。さらにブレーキを強く踏み込むと、はじめてディスクブレーキが作動してエンジンブレーキや回生ブレーキとともに減速させます。
後退時:車庫入れなどでR(リバース)レンジにシフトすると、自動的に取り回しモードとなり、ECOスタートストップ機能によるエンジン停止と再始動は行われません。
 

 株式会社 ティオ MOTOWN21 事務局
〒236-0046 横浜市金沢区釜利谷西5-4-21 TEL:045-790-3037 FAX:045-790-3038
Copyright(C) 2005-2006 Tio corporation Ltd., All rights reserved.