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トヨタが全車種併売を急ぐわけ


トヨタが全車種併売を急ぐわけ

 4チャンネルでの全車種併売の方針を示しているトヨタ自動車が、そのタイミングを前倒しすると発表した。昨年の発表では2022〜25年としていたが、 これを20年春に実施する。影響が大きい全車種併売をトヨタが急ぐ理由はどこにあるのか。
 発表によると、全車種併売を前倒しするのは、「世の中のスピード、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)の進展による市場や時代の変化が加速するなかで、国内6千店舗の最大活用とネットワークの変革を一層スピードアップする必要があると判断」したためという。「全国のどの店でも、車や移動に関するあらゆるサービスを提供することにより、お客さまのニーズにさらに寄り添うサービスの早期実現を目指す」としている。シェアリングサービスについては車両販売店だけでなく、レンタリース店にも適用を拡大する、と発表し、「垣根を超えた利活用サービスのさらなる拡大を推進する」としている。
 トヨタはこのところ国内販売政策を急展開している。東京の直営販売会社4社を1社に統合し、「トヨタモビリティ東京」(TMT)を発足させることを昨年4月に発表(今年4月統合済み)。これに続いて、昨年11月には全チャンネルでの全車種併売化を発表した。今回、その実施時期を大幅に前倒しすることを発表した。
 販売店にとって、全てのチャンネルで同じ商品を取り扱うことは、経営環境の大きな変化を意味する。これまでは異なる商品によって販売店どうしが差別化できていた。しかし、どの店も全て同じ商品を扱うことになれば「販売店ごとの真の実力が試される」(ディーラー)ことになる。トヨタの国内販売政策の大きな転換であり、商品数の削減とも直結しているだけに、トヨタ販売店にとっては同じトヨタ陣営の中での競争が始まることを意味する。
 しかし、販売店の反応は意外にも冷静だった。販売会社の代表からは「やるならできるだけ早い方がいい」という意見が多く、トヨタは背中を押された格好になった。中には「商品の垣根をなくすなら、テリトリーもなくしてほしい」といった苦言もあるが、多くの販売会社はトヨタの決断に理解を示したという。今回の前倒しは販売会社のこうした反応を受けて、決定したとみられる。
 トヨタがなぜ、これほど全車種併売化を急ぐのか。それはCASEの流れと無縁ではない。全チャンネル全車種併売化と同時に、販売店でのシェアリングサービスやサブスクリプション(定額利用)サービス「KINTO」を導入し、“所有から利用へ”の流れに沿った施策を導入する。もっとも、トヨタのシェアリングサービスは全国の販売店に配置している試乗車を利用するもので、一般のカーシェアリングサービスとは異なる。普通は住宅地の中や鉄道の駅のそばに車両ステーションを置き、利用者は会員登録して車を利用する。しかし、トヨタのサービスは、主に販売店の顧客を対象にする。平日の稼働率が低い試乗車を利用し、色々な車を使いたいという顧客ニーズに応える。そのためには、販売店の店舗に全ての車種が揃っている方が良い、というのがトヨタの論法だ。
 CASEのSであるカーシェアリングの会員数は、うなぎのぼりに増加している。交通エコロジー・モビリティ財団によると19年3月調査のカーシェアリング会員数は前年同期比23.2%増の162万6618人、車両数は同19.8%増の3万4984台と、いずれも増え続けている。需要を獲得しているのはタイムズ24オリックス自動車三井不動産リアルティといった不動産や金融・リース会社で、ステーション数・車両数が増えて利便性が増せば、まだまだ会員数が増える可能性がある。

 特に都市部では車を保有していなかった人たちがカーシェアリングによって車を利用するようになったり、それによって車の購入を検討し始めたりするケースがある。自動車メーカーにとっても新たな販売機会の創出につながる可能性があり、トヨタだけでなく、日産自動車ホンダも独自にカーシェアリングサービスを始めている。だが地方部も含めてカーシェアがどこまで普及するかは未知数だ。
 トヨタが全車種併売化する目的はあくまでも、車種削減による効率の向上にある。チャンネルごとの専売車種を無くせば、メーカーとしては車両の開発にかかる費用を減らすことができ、その分の資金を自動運転や電動化といった新しい分野に振り向けることができる。チャンネルはそれでも維持するが、東京の直営店をモデルとして、いずれ全国的にも一本化されていく方向にあるとみられる。
 日産やホンダなど、他のメーカーは2000年代に全車種併売とチャンネル一本化を完了したが、トヨタは専売車を残してほしい、という販売店の意向を踏まえ、「クラウン」(トヨタ店)「カローラ」(カローラ店)「ヴィッツ」(ネッツ店)「ハリアー」(トヨペット店)などの専売車種を残してチャンネルを維持してきた。しかし、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるIT(情報技術)企業をはじめ、ソフトバンクグループも自動車を使ったサービスに参入し、いやが上にもITのスピードについていく必要性に迫られている。こうした企業との提携や新分野の技術開発にはお金がかかり、その資金をどう捻出するかがメーカーの課題になっている。
 トヨタは国内生産台数の規模を維持することが技術力などの国際競争力を維持する上で必要不可欠だとしている。トヨタの国内生産は年間300万台で、国内向けと輸出が半々だ。しかし、全車種併売化により車種は30弱へと半減する見通しで、このままでは販売台数も減り、国内生産の規模を維持できなくなる。一方、シェアリングサービス用として供給する台数を増やせば、生産台数を大きく減らさずに済む。全車種併売化は自動車産業の大変革期にトヨタが考え出した苦肉の策ともいえそうだ。




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